第196章 社長の謎めいた恋人

藤崎グループ本社は、相変わらず忙しい日々を送っていた。

各部門の責任者たちは早くから19階に集まり、朝9時からの朝礼で新プロジェクトの企画や、その他のプロジェクトの進捗状況を報告するために待っていた。

しかし、いつも時間通りに出社する彼らの社長は。

今日は……遅刻していた。

各部門の幹部たちは藤崎雪哉の特別秘書である岡崎謙に尋ねた。「岡崎さん、電話して聞いてみてください。社長は今日会社に来るのでしょうか?」

主に、彼らには社長に電話して出社を急かす勇気がなかったからだ。

岡崎謙はエレベーターホールの方向を見て、エレベーターから出てきた人を見た途端、口元が引きつった。

「岡崎、10分後に会議の準備をしておけ」

藤崎雪哉はそう言いながら、工藤みやびの手を引いて皆の前を通り過ぎ、社長室に入っていった。

各部門の幹部たちはエレベーターの方向から来た社長を目を見開いて見つめ、自分の目を疑った。

彼らの社長が……女の子の手を引いて出社したのか?

女の子は薄紫色のノースリーブワンピースを着て、肌は玉のように白く、体つきは細くて愛らしかった。

残念ながら、マスクをしていたので顔立ちはわからなかった。

しかし、外に見える一対の目は長くカールした濃いまつげを持ち、特に美しく見えた。

企画部長は淹れたばかりのコーヒーを手が震えて床にこぼしてしまった。

他の幹部たちも皆、幻想的な表情で、彼らの社長が女の子の手を引いて社長室に入っていくのを呆然と見つめていた。

工藤みやびは昨夜、家に着いたのは午前2時過ぎで、ベッドに横になったのは3時だった。

朝はぐっすり眠っていたが、無理やり会社に連れてこられ、オフィスに入るとソファに倒れ込んで眠たそうにしていた。

藤崎雪哉も彼女がよく眠れていないことを知っていたが、彼女は帰ってきても数日しかいられず、その後また一ヶ月以上離れることになる。

だから、今は側に置いておけるなら、必ず側に置いておきたかった。

「会議があるから、先にソファで少し寝ていなさい」

工藤みやびは目を細めて頷き、靴を脱ぎ捨てて眠る準備をした。

藤崎雪哉は電話を取り、内線をかけた。

「岡崎、毛布を持ってきてくれ」

1分後、岡崎謙は薄い毛布を持って入ってきた。