ホテルに戻ると、彼らのフライトまでそれほど時間が残っていなかった。
二人はそれぞれ自分の部屋に戻って荷物をまとめ、撮影クルーと合流して空港へ向かった。
竹内薫乃を工藤家に連れて行かなかったため、薫乃はずっと不機嫌な顔をしていた。
藤崎千明は搭乗を待つ間、こっそり彼女に尋ねた。
「昨夜、一体どうやって工藤司と知り合ったんだ?」
工藤司の今日の行動はあまりにも常識外れだった。
そして彼女も、今日は少し様子がおかしかった。
工藤みやびはもう隠す気もなく、直接答えた。
「昨夜、彼らは誰かを捕まえようとしていて、私を間違えて連行したの。それで石橋林人に電話したら、林人が迎えに来てくれたわ」
「マジかよ、そんな大事なことを俺に言わないなんて!」藤崎千明は怒った。
「言ったところで、あなたはお兄さんに報告するんでしょ?」工藤みやびは彼を横目で見た。
藤崎千明は心虚になって鼻をこすり、話題を変えた。
「じゃあ兄貴には、今どう説明すればいい?」
工藤みやび:「どう説明すべきか、そのまま説明すればいいわ」
藤崎雪哉の前で嘘をつくなんて、少しでも疑われたらすぐに調べられてしまう。
それなら、早めに正直に話した方がいい。
藤崎千明は注意した、「前に自分で言ったじゃないか、兄貴が怒ったら、お前が責任取るって」
工藤みやびは心ここにあらずという様子でうなずき、言った。
「わかったわ、あなたの密告でも何でもすればいいわ」
「じゃあ俺は…」
工藤みやびは横を向いて藤崎千明を見て、頼んだ。
「少し一人にしてもらえる?」
藤崎千明は口をとがらせ、携帯を持って離れた場所に座り、兄に報告の電話をかけた。
工藤みやびはサングラスをかけ、静かに椅子の背もたれに寄りかかり、思考は乱れていた。
やはり20数年間生活していた場所だから、再び戻ってきて心が動かないはずがない。
あの家には、もう彼女の居場所はなかった。
たとえ工藤司を恨んでいなくても、やはり悲しい気持ちになる。
空港で1時間以上待った後、ようやく帰国便に搭乗した。
基本的に、西新宿映画祭で工藤司と堀夏縁を見かけてから、彼女はずっと神経を張り詰めていた。
国内に戻っても、撮影クルーと一緒にいるため、一瞬たりとも気を抜くことができなかった。
ホテルに着くと、藤崎千明はやはり隣の部屋にいた。