藤崎千颯は彼らが自分の一番食べたかったティラミスを食べ終えるのを見て、悔しくて泣きそうになった。
天水ヴィラを出た後、怒りに任せて帝都で一番有名なティラミスを買いに行ったが、食べてみると彼らが食べていたものの香りほど美味しくないように感じた。
藤崎千明がビデオ通話をかけてきて、藤崎千颯がフォーク二本を手に持ってケーキを貪り食う姿を見て、顔をしかめた。
「おいおい、何かショックでも受けたのか?」
「兄貴が、実の兄貴がケーキを一口も食べさせてくれなかったんだ。それどころか俺の目の前で全部食べちゃって、皿すら舐めさせてくれなかった」藤崎千颯は怒りながら訴えた。
藤崎千明は鼻を鳴らして言った。「お前が兄貴の誕生日ケーキを盗んで、一人で食べたのが足りなかったのか?」
兄の誕生日の日、ケーキを食べる時間がなく、後で兄が忙しくて食べられなかった。そしてこいつが盗んで一人で食べてしまったのだ。
「あれはムースだったけど、これはティラミスだ。同じものじゃないだろ?」藤崎千颯は言った。
「どっちも甘いものじゃないか」藤崎千明は言った。
とにかく、彼はこの甘いもの魔人である次兄を理解できなかった。
「俺にははっきりわかったよ。兄貴は荒木雅という罠にはまって、もう二度と抜け出せないだろうな」藤崎千颯は批判した。
藤崎千明はビデオ通話の向こうで、トレーニングをしながら言った。
「ほう、お前は義姉さんに死にに行ったようだな」
このバカ者も自業自得だ。兄を怒らせれば兄一人に虐められるだけだが、義姉を怒らせれば兄と義姉の両方に虐められることになるのに。
「俺は…」
藤崎千颯は言いかけたが、実の兄の言いつけを思い出した。あの件は他の人に話してはいけないと。だから言葉を飲み込むしかなかった。
「藤崎の三の若様、もし荒木雅が兄貴に隠し事をしているなら、本当に義姉さんとして相応しいのか?」
「相応しいかどうかは、お前が決めることか?」藤崎千明は反問した。
藤崎千颯:「でももし…」
彼はただ理解できなかった。彼女が兄に隠さなければならないことが何かあるのか。
兄は明らかに彼女と結婚するつもりなのに、何を言えないことがあるのだろう。