工藤みやびの胸は一瞬にして波打った。こんな見知らぬ電話をかけたのに、何の音も聞こえないとは思わなかった。
彼は...彼女だと分かるなんて。
千言万語が心に湧き上がったが、このような状況では彼女は一言も余計なことを言えなかった。
そこで、彼女はただ軽く返事をするしかなかった。
「うん。」
彼女がそう答えると、電話の向こうから男性の少し震える息遣いが聞こえた。
まるで、何か重いものが、この瞬間にようやく少し下ろせたかのようだった。
藤崎雪哉は彼女が話しづらい状況かもしれないと理解し、重要なことだけを伝えた。
「本間壮佑が病院の近くにいる。今すぐ出れば、彼が合流して君を連れ出してくれる。」
工藤みやびは少し震えた。師匠が彼を探しに行ったとは思わなかった。
しかし、考える間もなく、後ろの廊下から急ぎ足の音が聞こえてきた。