工藤みやびの胸は一瞬にして波打った。こんな見知らぬ電話をかけたのに、何の音も聞こえないとは思わなかった。
彼は...彼女だと分かるなんて。
千言万語が心に湧き上がったが、このような状況では彼女は一言も余計なことを言えなかった。
そこで、彼女はただ軽く返事をするしかなかった。
「うん。」
彼女がそう答えると、電話の向こうから男性の少し震える息遣いが聞こえた。
まるで、何か重いものが、この瞬間にようやく少し下ろせたかのようだった。
藤崎雪哉は彼女が話しづらい状況かもしれないと理解し、重要なことだけを伝えた。
「本間壮佑が病院の近くにいる。今すぐ出れば、彼が合流して君を連れ出してくれる。」
工藤みやびは少し震えた。師匠が彼を探しに行ったとは思わなかった。
しかし、考える間もなく、後ろの廊下から急ぎ足の音が聞こえてきた。
「分かった、帰るのを待っていて。」
彼女はそう言うと、急いで電話を切り、近くの医師のオフィスに滑り込み、手術着を脱いで医師の白衣に着替えた。
そして、病院の出口に向かわず、来た道を引き返して堀夏縁を探しに行った。
人を探しているボディーガードたちは、外に向かう人ばかりに注意を払い、彼らに向かって歩いてくる人には気づかなかった。
普通の人なら、彼女は出口に向かって急いでいるはずだと思い込み、引き返すとは考えないだろう。
だから、自然と彼らに向かって歩く人を無視し、外に向かう人に注意を払うのだ。
彼女は遠くからエレベーターの前に立つ堀夏縁を見つけ、急いで近づき、彼女の後ろについてエレベーターに乗り込んだ。
堀夏縁は病院のスタッフ用のエレベーターを使っていたので、中に入ったのは二人だけだった。
工藤みやびは彼女の後ろに立ち、手術室から持ち出したメスを手に、低い声で言った。
「堀夏縁、あなたも私が工藤家に残って工藤みやびになるのは望んでいないでしょう?」
堀夏縁はその声に驚いて振り向いた。「荒木雅?!」
「私が工藤家に残って工藤みやびになり、あなたの結婚を邪魔するのが嫌なら...ここから連れ出して。」工藤みやびは低い声で警告した。
堀夏縁は恨めしげに歯を食いしばった。「冗談じゃない!」