その後、パーティーが終わるまで、カーマン・ドランスは再び姿を現すことはなかった。
工藤みやびはマーティン・グリーンと三浦星安の再三の促しでパーティーを離れ、ホテルに戻って休んだ。
しかし、彼女は少しも眠気を感じなかった。
部屋に戻って10分も経たないうちに、藤崎雪哉から電話がかかってきた。
「ドランスのパーティーに行ったの?」
「うん。」
工藤みやびは部屋の床から天井までの窓に寄りかかり、外の夜景を眺めながら怠そうに返事をした。
藤崎雪哉は彼女の機嫌が良くないことを察して、「大変だった?」と尋ねた。
「ううん、ちょっと疲れただけ。」工藤みやびはため息をついた。
かつて長年探し求めていた実の父親に、やっと会えたのに、もう彼を父として認めることができなくなっていた。
藤崎雪哉は2秒ほど黙った後、彼女を休ませることにした。
「じゃあ...早く休んで。」
「でも、あなたと話したいの。」工藤みやびは彼の声を聞いて、なぜか気分が良くなった。
藤崎雪哉は低く笑って、「いいよ。」と答えた。
工藤みやびはカーテンを閉め、ベッドに横になって言った。
「藤崎おじさん、寝る前のお話ある?」
「あるよ。」藤崎雪哉は少し考えて、彼女にイタリアの有名な詩を一節読み聞かせた。
工藤みやびは気分が良くなり、電話の向こうで藤崎千颯が不満を漏らす声も聞こえた。
「兄さん、朝早くから、もうやめてよ。」
数時間の時差があり、イタリアではまだ夜だが、日本帝都ではすでに朝の出勤時間だった。
今は、二人が出勤する途中だった。
彼女は笑い声を上げて言った。
「Ti Amo!」
藤崎雪哉は時間を確認し、時差を計算した。
「もう遅いから、休みなさい。明日も撮影があるんでしょう?」
「うん。」工藤みやびは答えた。
「撮影が終わったら、早くイタリアを離れて。ドランス家の人たちが最近そこに集まっているから、あまり安全じゃない。」藤崎雪哉は心配そうに注意した。
カーマン・ドランスが彼女に何かするとは思わなかったが、彼女がそこに留まることで、何か良くない状況に遭遇するのではないかと心配していた。
「わかったわ、ここでの撮影が終わったら、パリに行ってメリンに会うわ。」工藤みやびは言った。
「おやすみ。」藤崎雪哉は彼女におやすみを言って、電話を切った。