CHAPTER 2 STRANGERS (japanese)

夕暮れが迫るころ、太陽の黄金の眼差しは血のように赤黒く染まり、城のそばを流れる川辺の村はすでに人影を失っていた。

「聞いたか?」 「この村、かつては戦場の最前線だったんだぞ。」 「ああ、有名な話さ。勇敢な戦士たちの亡骸の上に建てられてるから、呪われた村なんだってよ。」 「しかも、昨日ハウンドに襲われたばかりなのに、今日もう野生動物の襲撃だってよ。」

「黙れ!貴様ら二人とも!」

年長の衛兵が怒鳴った。「貴様らの仕事は村の入り口を守ることだ。くだらぬ噂話で馬鹿を晒す暇はない。」

その時だった。一人の男が村の入り口に現れた。黒い毛皮のコートに、大きな赤い帽子。門の松明がほのかに彼の姿を照らす。

「誰であろうと、ここから引き返せ。村はもはや安全ではない。野生の獣が徘徊している。」頭衛兵が警告する。

「ご心配なく、滞在のつもりはありませんよ」と男は穏やかに返す。「私はただの冒険者。旅から旅へと彷徨うのが仕事です。」

「それならなぜ、わざわざここに?」

「この村の噂、リブロンスキー中に広がってるぞ」と別の衛兵が呟いた。

ジョンは本来、城の衛兵など望んでいなかった。だが家族の期待と貧しさが、どんな意思も折り曲げる。双子の兄マルコと共に、彼はここで十ヶ月間、ハングマン城の命令で村の守備に就いていた。指揮官はライゼン隊長だった。

「昨日、ここに私物を置き忘れてしまいまして…でも今朝、獣の襲撃の話を聞いたもので…」 そう言って、男はゆっくりと帽子を取った。

鮮やかな赤い髪が、後ろで束ねられていた。

「村人は間一髪で逃げられたそうだ。軽傷で済んだ者もいたらしいな。」

ライゼンが返すより先に、マルコが叫んだ。

「その赤い髪!昨日、ハウンドを倒したって噂の冒険者か!?」

「申し訳ないが、命令に従っているだけだ」とライゼンは毅然と言った。「許可のない者は村には入れられない。」

風が彼のマントの端を揺らす。背後には夕暮れの光に照らされた屋根が連なり、石畳の小道に影が伸びていく。コオロギの鳴き声が、静寂の中に穏やかに響く。

「承知しています」と男は落ち着いた声で返した。「ですが、私には許可があります――ベルフォード卿ご本人から。」

彼はコートの内側から巻物を取り出し、ゆっくりと広げた。手袋の革が静かに軋む。

ライゼンは眉をひそめて黙ったまま、その印章を見つめた。それは紛れもなく、ベルフォード卿の封印。真正で、揺るぎない権威の証。

「……了解した」と彼は低く呟いた。「これ以上の疑いようはないな。」

声には不満が滲んでいたが、彼は道を開けた。足元の砂利がザラリと鳴る。夕陽の光が鉄の門を通り、斑に影を落とす。

マルコが何かを言いたげな視線を送ったが、ライゼンはそれを無視し、男の背に呼びかけた。

「お名前だけでも、お聞きしても?」

男は足を止めた。風が彼の外套の裾を揺らし、夕闇の中にその姿を映し出す。

ライゼンは目を細めた。声は穏やかだが、内心には違和感が渦巻いていた。答えが少なすぎる。疑問が多すぎる。

「私が信用できないと?」

男は少しだけ振り返ってそう言った。表情は穏やかで、読めなかった。

「いえ、信じていますよ……ただ、貴方のように村人を救った方の名は、せめて知っておきたい。」

しばし、沈黙。頭上でカラスが鳴き、暗い空へ飛び去っていく。

やがて、男の唇にかすかな微笑みが浮かんだ。

「ケルです」とだけ、彼は答えた。「困っている者を助けるのは、誉れでもなんでもない。ただ、人として当然のことです。」

その言葉は風に乗り、夕闇と共に消えていった。

ライゼンは黙ったまま、彼の背を見送り続けた。やがて、夜が降り始めた。

ジョンとマルコもまた黙って立ち尽くし、ケルの姿が門の向こうに消えていくのを見ていた。

ライゼンの目は、その背を追い続ける。鋭く、慎重に。彼はハングマン城に四十六年仕えてきたが、王印のついた文書を持つただの旅人など、見たことがない――あの“ヴェンギン契約”を除いては。

その契約は十七年前に、厳重な式のもとに交わされたもの。見知らぬ男には無関係のはずだった。

本能が彼を止めろと叫んでいた。 だが、本能に従うのは“許可”ではない。

「入っても?」とケルは穏やかに尋ねた。 「もちろん。お気をつけて」と、ライゼンは答えた。だがその手の槍は、わずかに力が入っていた。

森の中はさらに暗くなる。

すでに夜は深まり、木々はその輪郭を失っていた。風に揺れる葉が、互いにささやき合っているようだった。

城壁に灯るランタン。訓練場には松明が灯り、揺れる光が石畳と土を黄金に照らす。

中央には、ブリュノの声が響く。

「流れを意識して…身体の内を巡らせ、皮膚の下を流れるように。剣にその全てを託し、光へと導く。――そして、解き放て。」

彼は一歩近づき、その存在だけで場を引き締めた。炎がその外套に光を落とす。

「感じられるか?」と彼は問う。

プルートは動かない。顎を引き、地面を見つめていた。すぐには答えなかった。

ブリュノは待つ。松明がパチパチと鳴り、少年の肩に張り詰めた空気が震えているようだった。

「……いいえ。何も。」

その声は小さい。ただ、正直だった。

ブリュノは静かに頷いた。感情を見せることなく、ただそこに立ち続ける。嵐が過ぎ去るのを待つ者のように。

プルートは幼い頃から魔力に悩まされていた。どんなに鍛えても、内なる魔流はかすかで、時にはまったく感じられなかった。

ルネットは、二ヶ月年下にもかかわらず、自然に風の魔法を操り始めていた。未熟で感情任せだったが、それでも力は応じた。

プルートの手の剣がわずかに震える。彼の視線は松明の向こう、暗くなり始めた森を見つめていた。

その奥に、何かが待っている気がした。

ブリュノは黙って、ただ彼の隣に立ち続けた。言葉ではなく、沈黙で支えるように。

やがて彼は、そっとプルートの頭に手を置いた。荒れた手のひらは揺るぎなく、長年の嵐に耐えた石のようだった。

「焦らなくていい」と、穏やかに言った。

「そうだ!」別の声が響く。軽やかで、どこか懐かしい声。

「まだ準備ができていないのに、急ぐ必要なんてないさ。」

訓練場の門から、その声がやって来た。温かく、親しみのこもった声だった。

「魔術師でなきゃいけない決まりなんてない。お前の剣技は、すでに多くの術師を超えているよ。」

プルートがその声に目を向けると、霧のかかった光の中から、一人の男が姿を現した。

セーンコだった。