第029章 ゴシップはやめて

高橋優奈が会社に着いて座ったところ、林田陽子が近づいてきた。

「優奈ー」

高橋優奈は振り向いて彼女を見た。「どうしたの?」

「昨日、仕事中なのにバッグを持ってどこに行ったの?」

高橋優奈は書類を整理する動きを一瞬止め、すぐに笑いながら言った。「私は...おばあちゃんに会いに行ったの...」

「昨日あなたが出て行った後、綾瀬社長も会社を出たって知ってる?」

高橋優奈は眉をひそめ、かなり好奇心を持って林田陽子を一瞥した。彼女の両目には「ゴシップ」という二文字が書かれているようだった。

高橋優奈は首を振った。「私は...」

林田陽子は疑わしげに彼女を見回した。「知らないの?」

「えっと...」

林田陽子は飽きることなく続けた。「地下駐車場であなたが綾瀬社長の車に乗るのを見た人がいるわ。」

高橋優奈は顔を上げて林田陽子を見て、唇を引き締めて言った。「もうゴシップはやめて、仕事に戻りましょう...」

林田陽子は高橋優奈の耳元に近づいて続けた。「今みんなが噂してるわ、綾瀬社長があなたを食事に誘おうとしてるって...」

高橋優奈は眉をひそめた...綾瀬光秀?彼女を誘う?!

彼女を殺すほうがまだましだ!

高橋優奈はオフィスの他の同僚たちを見回すと、意外にも何人かの目が彼女の方向を見ていることに気づいた。

彼女は急いで話題を変えた。「あの...林田陽子、私は昨日の仕事が終わってないから、急いで仕事しないと。あなたもクライアントから支払いを受ける予定でしょう?月末が近いから、あなたのボーナスはそのクライアント次第よ。」

高橋優奈がこう言うと、林田陽子は「そうそうそう」と何度もうなずいた。

そして自分の席に戻り、クライアントとの連絡に忙しくなった。

林田陽子が離れた後、他の同僚たちも次々と視線を外した。

しかし高橋優奈は気づかなかった、自分の後ろに座っている藤堂七海の...目の中で何かが変質していることに。

...

昼、とある高級レストランの入り口。

根岸詩音は高橋優奈を引っ張り、レストラン内のある場所を指さした。「見て、あそこの人よ。私はあなたの後ろに座るから、彼がどんな顔をしているか見られるわ。」

高橋優奈は一目見て、コメントした。「後ろ姿から見ると、かなりハンサムそうね。」