第153章 あなたに送ってもらう必要はない

……

翌日の朝。

高橋優奈はベッドから起き上がり、客室のドアの後ろで長い間躊躇してから、やっと勇気を出してドアを開けた。

彼女はドアを少しだけ開け、外を窺ってみると、男性の姿も物音も見当たらなかったので、やっと一歩踏み出した。

階段を降り、キッチンに向かおうとしたとき、玄関からドアを開ける音が聞こえた。

高橋優奈は思わずそちらを見ると、綾瀬光秀の長身の姿が目に入った。

スポーツウェア姿で、おそらく運動から帰ってきたところだった。

彼女は唇を引き締め、何も言わずにキッチンへ向かった。

女性が気づかなかったのは、背後から彼女がキッチンに入るまで見送る熱い視線だった。

高橋優奈が料理をしている間、綾瀬光秀は浴室でシャワーを浴び、服を着替えた。

男性が出てきたとき、朝食も出来上がっていた。

ダイニングでは、二人とも静かに食事をした。

食後、高橋優奈は階段を上がって自分の荷物を取りに行き、リビングを通るときに足を止め、迷った末に男性に自分の予定を伝えた。「綾瀬さん、今日は友達と約束があるので、昼食は帰ってきません。」

「ちょうどいい、私も出かけるところだ。送っていこうか?」綾瀬光秀は冷静に言った。

高橋優奈は断った。「結構です。地下鉄で行きますから。道が違いますし。」

男性は手に持っていた新聞を置き、顔を上げて彼女を見た。「どこに行くかも言ってないのに、どうして道が違うと分かるんだ?」

高橋優奈、「……」

彼女はショルダーバッグのストラップを両手で握りしめ、その場に立ったまま動かず、彼の申し出を断る方法を考えているようだった。

約1分後、女性は綾瀬光秀を見て言った。「綾瀬さん、私はただ友達に会いに行くだけです。送ってもらう必要はありません。さようなら。」

そう言うと、彼女は急いで玄関まで行き、靴を履き替えて素早く出て行った。

綾瀬光秀は慌てて逃げ出す女性を見つめ、鋭い目をわずかに細めた。

……

カフェにて。

高橋優奈と根岸詩音が向かい合って座っていた。

前者は興味なさげな表情で、後者は相手を見る目に観察の色が満ちていた。

根岸詩音は目の前のコーヒーを一口飲み、かなり諦めたように溜息をついた。「湾岸レジデンスで、あなたの旦那さんにまた虐められたの?」