高橋優奈はお風呂を済ませ、薬を塗り終えると階下に降りた。
綾瀬光秀はちょうど朝食を並べ終えたところで、ダイニングに座っていた。
彼女は足を運んでそちらへ向かった。
物音に気づいた綾瀬光秀が振り返って彼女を一瞥し、淡々とした声で言った。「座って食べなさい」
高橋優奈は素直に男性の向かいに座り、食器を手に取って食事を始めた。その間、異様なほど静かだった。
綾瀬光秀はもともとおしゃべりな性格ではなく、今は女性も昨夜のことがあって口を開かなかった。
そのため、雰囲気はとても微妙なものとなっていた。
朝食が終わる頃、高橋優奈は食器を置き、無意識に綾瀬光秀を見た——
彼はちょうどナプキンで手を拭いていて、彼女の視線を感じたのか、顔を上げて彼女を見た。
男性の黒い瞳と目が合った瞬間、高橋優奈は反射的に目をそらした。まるで泥棒のように。
そんな彼女の仕草に、長い間無表情だった男性の……口元に笑みが浮かんだ。
「君はずっと綾瀬奥さんを自称しているのに、綾瀬奥さんとして自分の夫を見るのに、こそこそする必要があるのかい?」
それを聞いて、彼女は再び綾瀬光秀をちらりと見て、言い訳した。「そんなことないわ」
高橋優奈はなぜか少し緊張していた。
彼女は昨夜から、二人の間に隔たりができたように感じていた。
二言を言った後、彼女は再び彼を見つめた。「綾瀬さん、昨日のことについて調べましたか?あなたの携帯電話を誰が持ち去ったのか、覚えていますか?」
「覚えているよ。だが見かけたとしても、あれだけ大きなホテルで、監視カメラも途切れていたとなると、簡単には見つからないだろう」
「じゃあどうすればいいの?」
「君はどうしたい?」
「私は誰に部屋に誘われたのか知りたいの。私は何も食べも飲みもしていないのに、睡眠薬を盛られたみたい」
それを聞いて、男性の瞳は深く沈んだ。
彼がホテルの部屋に入った時、テーブルの上に赤ワインのグラスが置かれていた。
正確には……半分ほど残ったワイングラスだった。
彼は以前、海外で勉強していた時に聞いたことがあった。ある種の睡眠薬は、どんな液体に混ぜても、高温で空気中に拡散すると、人を意識不明にさせるという。
男性がまだ思考に沈んでいる時、高橋優奈が彼を呼んだ。「綾瀬さん?」