高橋優奈は経理部長のオフィスを出て、コンピューターのフォルダからその土地に関する資料を整理してから、渡辺康一に電話を返した。
渡辺康一の軽い笑い声がすぐに聞こえてきた。「どうした?もうそんなに早く許可が出たのか?」
高橋優奈はビジネスライクな口調で言った。「渡辺さん、先ほどその土地の資料を整理しました。松本さんはいつ時間があるか、会社に来て詳しく話し合うことは可能でしょうか?」
「君たちの会社に行くのか?僕は会議室に座る前に綾瀬社長に追い出されるだろうな。行かないよ。」
彼女は少し躊躇してから、渡辺康一に尋ねた。「では...渡辺さんのご提案は?」
「南部臨海地区に、いい感じのアフタヌーンティーの店があるんだ。後で住所を送るから、2時に来られるなら大丈夫だけど、どうかな?」
「松本さんも来られますか?」
「もちろんさ。南部臨海地区を選んだのも、君たちの便宜を図ってのことだよ。松本時雄は今や僕の恩人だからね。彼がいなければ、君が進んで僕の電話をブラックリストから外すことなんてあったかな?」
高橋優奈、「……」
その話題を出さなくてもいいのに。
彼女は少し間を置いてから言った。「わかりました、渡辺さん、午後にお会いしましょう。」
……
南部臨海地区は、横浜市中心部から地下鉄で1時間ほどかかる場所にある。
高橋優奈は仕事が終わると社員食堂に食事に行った。一緒に座っていた林田陽子は、彼女が急いで食べる様子を見て、思わず尋ねた。「何を急いでるの?」
「午後にクライアントと会う予定で、時間がちょっと厳しくて。」
「もっと遅い時間に約束すればいいのに?」
高橋優奈は彼女に微笑んで言った。「場所がちょっと遠いんです。」
林田陽子、「……」
高橋優奈はすぐに食事を終え、バッグを持って立ち上がり、林田陽子にさよならを言いながら振り返った。
しかし、彼女は数歩も歩かないうちに、社員食堂の入口から入ってくる綾瀬光秀を見かけた。
彼の隣には桜井昌也がいた。
高橋優奈は唇を引き締め、決然と彼らの方へ歩いていった。
クライアントとの会談があるため、彼と数分間見つめ合って時間を無駄にする余裕はなかった。
綾瀬光秀の前を通り過ぎるとき、高橋優奈は社員としての態度を保ちながら挨拶した。「綾瀬社長、桜井秘書。」