第293章 綾瀬社長……本当に面白い人だ

高橋優奈は今、綾瀬光秀を完全に警戒している状態で、彼を見る目つきも狼から身を守るかのようだった。それを見た男は少し笑った。

彼は少し眉を上げて言った。「どうした?また私を怖がり始めたのか?」

高橋優奈は何も言わなかった。

携帯電話がまだ鳴っていた。彼女は光る画面をちらりと見て、「詩音」という名前を確認した。

半秒ほど迷った後、高橋優奈は手を伸ばして電話を取った。

実際には...完全に奪い取ったと言ってもいい。

彼女はドアを閉めてから電話に出るつもりだったが、綾瀬光秀はドア枠に寄りかかったまま、全く去る気配がなかった。

高橋優奈は部屋の中に数歩進んでから、やっと電話に出た。

「詩...」

高橋優奈は根岸詩音の名前を言い終わる前に遮られた。相手の声は少し震えていた。「優奈、どうしてやっと電話に出たの?おじいさんが...また意識を失ったの...」

「な...なに?落ち着いて、すぐに病院に行くわ。」

彼女が行ったところで根岸おじいさんの病状には何の助けにもならないかもしれないが、詩音に寄り添うことはできる。

電話を切った後、高橋優奈は振り返ってすぐに出ようとした。

二階の寝室のドアに立っている綾瀬光秀を見たとき、彼女の足は止まった。「綾瀬...綾瀬さん、今出かけないといけないんです。」

「どこへ?」

高橋優奈は彼を見て、一瞬呆然とした。

根岸おじいさんの病状は現在、外部に秘密にされている状態だった。だから...彼に知られるわけにはいかない。

しかし彼の様子では、どこに行くのか言わなければ自分を行かせてくれないようだった。

高橋優奈は唇を噛んだ。「私...病院に行きます。根岸おじいさんの具合があまり良くないので、様子を見に行くんです。」

「送っていく。」

「何ですって?」

「送っていくと言った。」

彼女は綾瀬光秀を一瞥し、電話での根岸詩音の少し取り乱した様子を思い出して、断らなかった。「ありがとう。」

綾瀬光秀は振り返り、階下へ向かった。

高橋優奈も続いた。

階下に着くと、女性はソファから先ほど男に脱がされた上着を取り、それを着て出かけた。

車が湾岸レジデンスを出たばかりのとき、高橋優奈は顔を向けて綾瀬光秀を見た。「少し速く走ってもらえませんか。」

「ああ。」男は低い声で一言だけ答えた。