根岸詩音は高橋優奈を見つめ、複雑で言い表せない感情が瞳に浮かんだ。
このような質問に、彼女はもちろん答えるつもりはなかった。
二人は沈黙のまましばらく座っていたが、やがて高橋優奈が顔を向けて再び口を開いた。「詩音、今週アメリカに行くつもりなの」
「わかった、その時は空港まで見送るわ」
高橋優奈はさらに小声で言った。「一つお願いがあるの」
「言って」
「私のおばあさんが富山老人ホームにいるんだけど、月に一度時間を作って会いに行ってくれない?」
根岸詩音はうなずいた。「問題ないわ」
言葉の後、彼女は再び高橋優奈を見た。「優奈、あなたの気持ち...本当に大丈夫なの?」
高橋優奈は彼女の視線に応え、唇を引き締めてから淡々と話し始めた。「まだ辛いわ。でも現実を受け入れないわけにもいかないし、それに...鈴木明誠が罪を認めたとしても、何かおかしいと感じるの。何となく事態はそれほど単純ではないような気がして。例えば...もし鈴木明誠が本当に養父と仲が良かったなら、私と養父の関係はとっくに知っていたはずよね。なぜ養父が出所する前夜になって初めて手を下したの?」
根岸詩音は彼女の言葉に背筋が寒くなり、彼女を見つめて言った。「優奈、その言葉は...どういう意味?」
「私にもわからないわ。たぶん気分が悪いから考えすぎているだけかも。特に鈴木明誠が自ら罪を認め、警察の捜査に協力的だったことを考えると、彼はきっと死刑を免れるためにそうしたんでしょうね。どうせ刑務所で4年過ごして、そこでの生活に慣れているし、もしかしたら...一生そこで過ごすことも受け入れられるのかもしれない」
「あなたが言いたいのは...彼が高橋おじさんを殺害したことには隠された事情があるということ?」
高橋優奈は手を上げて髪をかき上げた。「わからないわ、ただの感覚よ」
根岸詩音はため息をつき、それ以上何も言わなかった。
……
その夜、高橋優奈はテレサに電話をかけ、綾瀬光秀との離婚のこと、そして...アメリカに行く計画について話した。
テレサは大まかな状況を尋ね、とても辛抱強く彼女を慰めた。
航空券は明後日の午前、10時の便に予約された。
翌日、高橋優奈は富山老人ホームを訪れた。彼女は高橋おばあさんに高橋牧のことも、自分の離婚のことも話さなかった。