松本時雄の言葉が落ちると、高橋優奈はただ微笑んで、何も言わなかった。
男性は会計を済ませた後、ゆっくりと席から立ち上がり、高橋優奈を見て言った。「高橋さん、お送りしましょうか?」
「結構です。運転手を連れてきていますから」
彼は真面目な様子で頷き、それ以上は何も言わなかった。
松本時雄が立ち上がった後、紳士的に高橋優奈も立ち上がるのを待ち、二人は前後してレストランの入口へと向かった。
レストランを出るとすぐに、高橋優奈は以前一度だけ会ったことのある女の子——河合奈緒の姿を見かけた。
女の子は視線を直接松本時雄の顔に向けていた。
男性は彼女を見て、眉を少し動かした。
しかし女の子は松本時雄をちらりと見ただけで、彼に向かって笑った。相変わらず無邪気で幼さの残る笑顔だった。
すぐに、河合奈緒は高橋優奈に目を向け、首を傾げて挨拶した。「高橋さん、久しぶりですね」
高橋優奈は微笑みながら言った。「河合さん、ランチに来たの?」
「はい、兄がレストランで待っているんです。一緒にランチする約束をしていて。あなたたち...レストランから出てきたところですが、兄を見かけませんでしたか?」
高橋優奈はレストラン内を一瞥してから、河合奈緒を見て言った。「気づきませんでした」
河合奈緒は真面目な様子で頷き、それから松本時雄に目を向けた。「松本さん、二度目のお会いですね。私のこと覚えていますか?」
男性は頷いた。「もちろんです」
彼女は微笑み、自分でも気づかないほど情感のこもった目で、男性に手を差し出した。「松本さん、私は河合奈緒です。お会いできて嬉しいです」
松本時雄は彼女が差し出した手をちらりと見て、二秒ほど躊躇した後、高橋優奈を一瞥してから、手を上げて握った。
男性の動きは軽く、触れた後すぐに離そうとしたが、河合奈緒が少し力を入れて、すぐには離したくないという様子だった。
特に...女の子の顔には率直な笑みが浮かんでいた。
しかし一人の女の子が、三十歳を過ぎた男性の力に敵うはずもない!
結局、彼は手を振りほどいた。
男性は手を引っ込めた後、高橋優奈に向かって言った。「高橋さん、俺はこれで失礼します」
「松本さん、さようなら」
河合奈緒も続けて言った。「松本さん、さようなら」