「うぅぅ……怖いよ、私、暗いのが一番苦手で、何も見えなくて……あっ!」
彼女は何かに躓いたようで、足取りが明らかに乱れた。
林知恵は声を聞いて、深田紅が彼女の方向に向かって倒れてきたのだと察した。
そして彼女の前には宮本深がいる。
深田紅は本当に機会を利用するのが上手い。
続いて体がぶつかる音が聞こえ、深田紅の思惑通りになったようだ。
林知恵が冷笑しようとした瞬間、突然黒い影が彼女の前に立ちはだかった。
彼女は一瞬固まり、反応する間もなく、見覚えのある気配が迫ってきた。
林知恵は無防備なまま唇を奪われ、逃げることさえ忘れていた。
男の体からは、冬の日差しの中の冷たい空気のような香りがした。薄い陽光に少し温められた後の、凛とした暖かさを纏っていた。
彼のキスは強くなく、以前の強引さの半分もなく、むしろ彼女の口を塞ぐためのようで、息は乱れていたが抑制が効いていた。
林知恵は床で転がり合う悲鳴に我に返った。
そして、廊下の反対側から使用人の足音が聞こえ、彼女たちが手に持つ点火された香りのキャンドルが見えた。
林知恵はその光が近づいてくるのを見て、慌てて目の前の男を押しのけようとしたが、彼に腰を支えられて部屋に入れられた。
カチリという音と共に、ドアが閉まり鍵がかけられた。
林知恵は男に壁に押し付けられ、彼の息遣いが湿り気を帯びていた。
彼女が手を上げて抵抗しようとした時、男は彼女から離れ、軽く彼女の手を押さえた。
「俺が滋養スープを飲むべきかどうか、知らないのか?」宮本深の低くかすれた声は魅惑に満ちていた。
「あなた……」
林知恵が口を開こうとした時、ドアをノックする音が響いた。
「林さん、キャンドルをお持ちしました。」
宮本深は彼女を見つめ、一歩後ろに下がってドアの後ろに立ち、両手をポケットに入れ、誰かに見つかることなど気にしていなかった。
林知恵は歯を食いしばりながらドアを少し開け、女中の手から香りのキャンドルが載ったトレイを受け取った。
横目で廊下で転んだ二人、折木和秋と深田紅を見た。
「深田紅、起きなさいよ!」
「折木さん?どうしてあなたが?」深田紅は思わず言った。
「どういう意味?私じゃなくて誰だっていうの?」折木和秋の声はかなり鋭くなっていた。