車内。
宮本深と折木和秋が座ったばかりのとき、前の席で白い手袋をした運転手が振り向いて、申し訳なさそうに宮本深を見た。
「旦那様、会社に行かないのであれば、麗華通りを通りますが。」
「ああ。」
宮本深は軽く返事をして、目を閉じて休んでいた。
折木和秋はそこで運転手が以前の見慣れた人ではないことに気づき、好奇心から尋ねた。「どうして急に運転手が変わったの?道もよく知らないみたいだけど。」
宮本深は目を閉じたまま、冷たい声で言った。「道を知らなければ覚えればいい。雇い主を見分けられない者は必要ない。」
折木和秋の表情にひびが入り、新しくしたネイルが本革のシートに食い込んだ。
しかし彼女は笑顔を保ったまま「はい」と答えた。
その後、二人とも何も話さなかった。
折木家に着くと、折木和秋は宮本深を引き留める勇気もなく、「さようなら」と言うと、まるで逃げるように車から降りた。