第135章 自ら部屋のカードキーを渡す

田中家、祝勝宴。

警備員の護衛のもと、林知恵は金庫を手に持ち、雪村真理に従って田中広志の休憩室に入った。

同行者は林知恵の他に、ベラと深田紅がいた。

深田紅はベラの推薦だったが、詳しく考えるまでもなく、林知恵はこれが折木和秋の意向だと分かっていた。

彼女たちは今日、自分を窮地に追い込もうとしているのだ。

しかし、それでちょうど良かった。

深田紅が来なければ、この芝居は続けられなかっただろう。

林知恵が部屋に入るとすぐに、田中広志の露骨な視線を浴びた。その目には下劣さと脅しが混ざっていた。

彼は葉巻に火をつけ、笑いながら言った。「雪村長、随分と時間通りだな。もう来ないかと思ったよ」

雪村真理は黒い背中の開いたイブニングドレスを着こなし、優雅で凛とした雰囲気を漂わせながら、冷静に答えた。「田中社長は私たちの大切なお客様です。どうして粗末にできましょうか?」

そう言って、彼女は林知恵をちらりと見て、威厳を持って言った。「早く行きなさい。こんな簡単なことまで私が催促しないといけないの?」

林知恵は顔色が青ざめ、死に向かうような表情で田中広志の前に進み出た。

「田中社長、こちらがご注文のジュエリーです。ご確認ください」

金庫のロックを解除すると、田中広志はその中からジュエリーボックスを取り出して開けた。

ブローチは元のブローチだったが、もともと魚の頭の部分にあったカシミールサファイアが普通のサファイアに変わっていた。

田中広志が怒りかけたとき、ボックスの蓋にルームキーカードが貼られているのに気づいた。

彼はすぐに林知恵が妥協したことを理解した。

「ハハハハ」田中広志は大声で笑い、ブローチを取り出して胸に付けた。「いいね、いいね。私は時勢を弁えた人が好きだ。このブローチ、とても気に入ったよ」

雪村真理は軽く頷いた。「ありがとうございます、田中社長。それでは失礼します、先に失礼いたします」

田中広志は大きく手を振った。「行きなさい、また後で会おう」

言葉は雪村真理に向けられていたが、彼の目は林知恵から離れなかった。

休憩室を出た後、林知恵は少し魂が抜けたようだった。

彼女は雪村真理に追いつき、懇願した。「雪村長、少し気分が悪いので、パーティーに行く前にホールで少し空気を吸いたいのですが」