その時、林知恵の鼻に特別な香水の香りが漂ってきた。
淡いのに、一瞬で人の注意を引くような香り。
林知恵がこのような香水の香りを嗅いだのは初めてだった。普通の店頭の商品というよりも、特別に調合されたものに思えた。
でも……そんな高級な香水をつけている人が、普通のスーパーに買い物に来るなんて?
疑問を抱きながら、林知恵は少し顔を横に向けて見た。
精巧で立体的な美しい顔が冷淡に現れていた。
試食コーナーで、その女性が爪楊枝を持つ仕草は、まるで高価な宝石を扱うかのようだった。
林知恵の視線に気づくと、女性は横を向いて眉を上げた。
「何か用?」彼女は淡々と口を開き、感情のない口調だった。
林知恵はすぐに我に返り、気まずそうに笑った。「いいえ、何でもないです」
女性は爪楊枝のパンを一口食べた。「悪くないわね、これをください」
店員は彼女の身なりを見るなり、急いで三つの大きな袋を取り出し、女性のカートに入れた。
林知恵はちらりと見て、注意した。「一人で食べるの?」
女性は彼女を見た。「問題ある?」
「賞味期限が近いよ」林知恵は黄色いラベルを指さした。
女性は袋の日付を見た。あと二日で期限切れだった。店員は明らかにそれを知っていて、こんなにたくさん渡したのだ。
店員の小細工がばれて、恥ずかしそうに二袋を取り出した。
問題が解決したのを見て、林知恵はカートを押して向きを変え、前で山田さんを待つつもりだった。
しかし、女性が彼女を呼び止めた。
「ちょっと待って」
林知恵は足を止め、問いかけるような目で女性を見た。
「井上希美よ。さっきはありがとう」
女性は手を差し出し、顔は笑っていたが、その笑みはとても浅かった。
なぜか本心から感謝していないように感じられた。
しかし林知恵は確かにこの女性を知らなかった。
それでも礼儀として、彼女は軽く女性の手を握った。
「林知恵です。どういたしまして」
「また会いましょう」
女性は手を振って去り、淡い香りを残した。
林知恵はその場に立ったまま、少し不思議に思った。
そのとき、山田さんが二つの大きなジュースを持って近づいてきた。
「どうしてぼんやり立ってるの?」
「何でもないよ。行こう」
林知恵はこの出来事を気にせず、山田さんとスーパーでの買い物を続けた。
一方、別の場所では。