第116章 忘却は最大の無情(6)

言い終わると、有栖川涼は身を翻し、寝室のドアの外へと向かった。ドアを出て2メートルほど進んだところで、常盤燿子が本当に有栖川様に電話をかけるのではないかと心配になり、足を止めた。

少し考えてから、数歩後ろに戻り、部屋の中にいる常盤燿子に向かってこう言い足した。「おじいさんの前で俺の話を出すなよ!もしおじいさんから電話がかかってきて、俺の気分を害するようなことを言われたら、帰ってきたときにどうなるか分かってるだろうな!」

そして、有栖川涼はようやく大股で颯爽と立ち去った。

……

階下から有栖川涼の車のエンジン音が聞こえてくるまで、常盤燿子は頭から被っていたシャツを引き下ろさなかった。

彼女はゆっくりと頭を回し、窓越しに、ちょうど有栖川涼の車がゆっくりと別荘の門を出ていくのを見た。