第170章 そのまま読み上げる(10)

電話が一度鳴ると、有栖川涼は心の中でぶつぶつと文句を言い始めた。

耳がないのか?ベルの音が聞こえないのか?携帯電話は飾りなのか?本当にイライラさせられる……

有栖川涼が、後でハウスキーパーが電話に出たら絶対に彼女をきちんと叱ってやろうと考えていたその時、電話が繋がった。直前まで叱ろうと思っていた彼が口にした最初の言葉は、なんと「見つかった?」だった。

「いいえ、私が出たときには、お嬢様はもう玄関にいませんでした。今、マンションの入り口にいますが、通りはがらんとしていて、お嬢様の姿も見えません……」

有栖川涼は眉をひそめ、電話越しのハウスキーパーに不機嫌な声で言った。「誰もいない?どうしていないんだ?たった今出て行ったばかりで、彼女はスリッパを履いていたんだ、そんなに早く行けるはずがない。見落としたんじゃないのか?それとも彼女はマンションのどこかに隠れているんじゃないか?」