有栖川涼は考えることもなく洗面所に向かって走り、ドアを開けると、洗面台の前に立っている常盤燿子の姿がすぐに目に入った。
有栖川涼がドアを開ける動作が少し大きかったため、常盤燿子は驚いて横を向き、誰が来たのかを確認しようとした。しかし、頭を半分だけ回して来訪者をはっきりと見る前に、胃の中でまた激しくむかつきが込み上げてきて、急いで身を翻して洗面台に向かい、再び嘔吐し始めた。
有栖川涼は浴室の入り口で一瞬立ち止まった後、すぐに常盤燿子の側に駆け寄り、彼女の肩を支えながら、切迫した心配そうな声で尋ねた。「どうしたんだ?どこか具合が悪いのか?」
常盤燿子は有栖川涼の声を聞くと、体が軽く震えた。彼に「大丈夫」と言おうとして唇を動かしたが、またも酸っぱい液体を吐き出してしまった。