どんな映画を見るかなんて全然重要じゃなくて、大事なのは有栖川涼と一緒に映画を見ることだった。常盤燿子はざっと映画の上映時間を確認し、手近な比較的早い時間の作品を選んだ。信号待ちの間に、スマホを有栖川涼の前に差し出して尋ねた。「これでいい?」
有栖川涼は純粋に常盤燿子に付き合って見るだけだったので、どんな映画を見るかにこだわりはなかった。彼は形だけ常盤燿子のスマホ画面を一瞥し、頷いて言った。「いいよ」
……
有栖川涼の車が映画館の地下駐車場に入った次の瞬間、赤い車が映画館の入り口にぴたりと停車した。
運転席に座った高橋静香は窓を下ろし、映画館をしばらく見つめてから、隣に置いてあるモバイルバッテリーに繋がったスマホを手に取った。バッテリー残量を確認すると73%を示していたので、ケーブルを抜き、自宅の固定電話に再度電話をかけた。