第339章 《終点》（9）

九年間、彼女は有栖川家の旧邸を九十回以上も訪れたのに、彼は彼女が誰なのかさえ覚えていなかった。

悲しかった？

とても悲しかった。あの日の彼女は、今と同じように、家に帰ってから一人で部屋に隠れて泣き崩れた。

でも後になって、彼女はもう悲しくなくなった。なぜなら彼がすべての女の子に対して同じ態度だと気づいたからだ。

顔も覚えられず、名前も覚えられず……

彼と彼女が高校三年生で卒業間近になるまで、「常盤燿子」という名の高校一年生の後輩が彼の例外となった。

嫉妬した？

とても嫉妬した。でも彼女にはどうすることもできなかった。ただ一人でこっそりと嫉妬し、心を痛め、そして唇と鼻が少し似ているその後輩を羨むしかなかった。

しかし彼女の嫉妬は長く続かなかった。有栖川涼は軍隊に入り、彼にとって特別だったその後輩との連絡が途絶えたのだ。