柔らかく心地よい前奏が、広場全体に響き渡った。
約30秒ほど経ったところで、常盤燿子は歌い始めた。柔らかく軽やかな歌声が、音楽に乗って、ゆっくりと四方に広がっていく。
「私たちが始まった場所に戻って、あの雨の日のことを覚えているわ。あなたは私をしっかりと抱きしめて、永遠に愛すると言った。でも約束は時間には勝てなくて、あっという間に愛は終点に辿り着いてしまった。」
8年前、彼はさりげなくスーツケースを持ち上げる一つの行動で、そんな風に強引に彼女の世界に入り込んできた。
8年前、彼は二度も約束を破り、偽の電話番号を残し、彼女の世界を掻き乱した後、彼女の世界から綺麗さっぱり消えてしまった。
8年の間、彼女は諦めることなど考えもせず、ずっと彼の帰りを待っていた。たとえ、彼が彼女のことを忘れてしまったとしても。