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映画館を出たとき、まだ夜の8時半だった。
二人はまだ夕食を食べていなかった。車に乗り込み、有栖川涼が映画館の地下駐車場を出たところで、常盤燿子に尋ねた。「何か食べたいものある?」
常盤燿子はほとんど考えずに答えた。「何でもいいよ」
有栖川涼は車を運転しながら、頭の中で彼が行ったことのある美味しいレストランを一つずつ思い浮かべていった。そして最後に、なぜか田中屋を思い出した。
以前、彼が自分の気持ちに気づく前、神奈川市立高校の門前で彼女と偶然出会った日、彼は不思議と彼女を田中屋に誘っていた。
ただ途中で犯罪者と常盤陽に遭遇し、気分が悪くなって約束をキャンセルしてしまった。
あの時できなかったことを、今完成させることができるのではないか。彼と彼女のこれからの未来の始まりとして、一つのスタート地点にできるのではないか?