第395章 それは深愛、好きではない(5)

彼の持つ武術の腕前と、軍隊で幾度となく危険な状況を乗り越えてきた経験をもってすれば、川で二人の少年を救うことなど、まったく問題ではなかった。

「朝飯前」という言葉で表現しても、決して大げさではない。

ただ、多くの場合、物事は思いがけない展開になるものだ。

有栖川涼は二人の少年の腕をつかみ、水面に引き上げ、小さな滝に流される前に岸辺に到達していた。

彼は片手で岸の枯れ木の切り株をつかみ、もう片方の手で二人の少年を岸へと引っ張った。

川の中で二人の少年は、おそらく本当に怯えていて、生存本能が強く働いていた。力不足のため、岸に這い上がるのに苦労していた。そのうちの一人の少年が、緊急事態の中、岸に上がるために力を借りようと、後ろに向かって強く蹴りを入れた。それが偶然、涼の首に当たってしまった。