大和くんは驚いて手が震え、スマホが指先から滑り落ちそうになった。
次の瞬間、電話の向こう側が一瞬にして静まり返った。
約30秒後、有栖川涼のやや上の空な声が電話から聞こえてきた。「今、何て言った?」
彼の声はやや詰まっていて、かなりお酒を飲んでいるようだった。
「常盤秘書が今、有栖川様と和泉さんをもてなしています」大和くんは急いで先ほどの言葉を繰り返した。彼は有栖川涼に自分が怠けていると思われるのを恐れ、さらに付け加えた。「和泉さんのご要望です。常盤秘書と話が合うとおっしゃっていました」
「常盤秘書か?」電話の向こうで、有栖川涼の声はやや漂うように聞こえ、まるで常盤秘書が誰なのか忘れてしまったかのようだった。少しして、彼は「ああ」と言い、「わかった」と一言残して電話を切った。