第208章 完全に釣られない

彼は突然彼女の顎をつかみ、歯を食いしばって低く唸った。「安藤若菜、警告しておく。俺を怒らせようとするな！さもないと後悔することになるぞ！」

「離して、時間がないの。あなたとくだらない話をしている暇はないわ。式を挙げたいなら、あなた一人でやりなさい！」安藤若菜はいらだちながら彼の胸を押しのけようとした。藤堂辰也はその勢いを利用して彼女の手首をつかみ、強引に彼女を抱き寄せた。

「本当に両親がどうやって死んだのか知りたくないのか？」彼は彼女の腰を抱きながら、目を細めて静かに尋ねた。

安藤若菜の心臓が跳ねた。両親の死には、本当に裏があるのだろうか？

でも、彼らは確かに交通事故で亡くなったはずだ。

警察も事故死と発表している。もし本当に陰謀があったなら、きっと調査で明らかになっているはずだ。

それに事件から11年も経っている。彼に何がわかるというのだろう？

安藤若菜は、これは藤堂辰也の作り話だと思った。彼女を誘い込み、自分の思い通りにさせるための罠だ。

彼女はそんな罠にはまるつもりはなかった。

「すみませんが、知りたくありません」彼女は少しの好奇心も見せずに言った。本当に知りたくなかったのだ。

藤堂辰也は唇を上げて薄く笑った。「親不孝者め、両親の仇を討ちたくないのか？」

「言ったでしょう、知りたくないって。彼らはもう何年も前に亡くなったの。藤堂辰也、彼らを尊重して、彼らを使って私を脅さないで」安藤若菜の声は冷たかった。

「俺が嘘をついていると思っているのか？」

「……たとえ本当だとしても、あなたに教えてもらう必要はないわ！」彼女は自分で調べるつもりだった。何年かかっても、調べ上げるつもりだった。

彼女の考えを見抜いた藤堂辰也は軽蔑して言った。「お前ごときに調べられると思うのか？安藤若菜、この件は犯人自身が自白する以外、真相を突き止められる唯一の人間は俺だけだ。お前が調べても、百年経っても結果は出ないぞ！」

安藤若菜も軽蔑して笑った。「自分を大げさに言わないで。あなたが調べられることを、他の人が調べられないなんて信じないわ。藤堂辰也、人間、そんなに自信過剰になっちゃだめよ。人には人の上があり、天には天の上があるって知るべきよ。自信過剰だと、孔雀みたいになっちゃうわよ」

この忌々しい女！