第212章 花嫁は本当に安藤若菜

「何が我慢できないことをするって言うの?」男は眉を上げ、目を細めて危険な様子で彼女に尋ねた。

安藤若菜は答えなかった。彼の心の中では分かっているはずだ。

藤堂辰也は彼女の精巧な容姿と、ちらりと見える胸元を見て、思わず笑みを浮かべて頷いた。「確かにベールで隠した方がいいな」

————

空は青く、緑豊かな芝生には、招待客が座り込んでいた。

九千九百九十九本のシャンパンローズが、魅惑的な香りを放っていた。

赤いカーペットの先には、今日の新郎新婦が立っていた。

神父が新婦の名前を読み上げると、会場の招待客全員が一瞬固まった。彼らが我に返った時には、新郎新婦はすでに「誓います」と言い、指輪の交換をしていた。

神父は笑顔でこの新しいカップルを見つめ、慈愛に満ちた声で言った。「それでは、新郎は新婦にキスをしてください」

藤堂辰也は薄い唇を少し上げ、端正な顔に喜びの色が満ちていた。彼は安藤若菜に近づき、手で探るように、ゆっくりと彼女のベールを持ち上げた。

こんなに近い距離で、彼は安藤若菜の目に緊張と不安、そして警告の色が見えた。

ベールが上がれば、彼女の顔が露わになる!

「ベイビー、みんなに知らせるべきだよ、君が僕の妻だということを」藤堂辰也は低い声で言った。

安藤若菜は歯を食いしばった。「だめ、目立ちたくないの!藤堂辰也、もし上げたら、許さないわよ」

男は口元を歪め、妖艶に笑った。「じゃあ、今夜の初夜は君から積極的になってくれるなら」

「あなた…」安藤若菜は驚きと怒りを感じた。「最低!私はすでに結婚式を挙げることに同意したのに、調子に乗らないで!」

藤堂辰也は眉を上げ、目に邪悪な光を宿した。「同意しなくてもいいよ。どうせ僕はJ市の全員に、今日の新婦がどんな顔をしているか知ってもらいたいんだ」

もし彼女の顔が公になったら、これからJ市でどうやって生活すればいいの?

どこに行っても記者に認識され、完全にプライベートな生活が失われてしまう。

安藤若菜は目を伏せ、何度も考えた末、静かに頷いた。「わかったわ、同意する」

男の目は一瞬輝き、その奥底には気づかれにくい期待の色があった。

彼の頭の中には、すぐに安藤若菜が積極的になる場面が浮かんだ。考えるだけで下腹部が引き締まる感覚があった。