第216章 心に雑念がある

薄暗く幻想的な灯りの下、藤堂辰也はポケットに両手を入れ、悠々と高級輸入フローリングの上を歩いていた。

正面から一人の女性が歩いてきて、何気なく一瞥した視線が、彫刻のように整った彼の顔に釘付けになった。

「辰也さま、なんて偶然。」安藤心は上品で適切な微笑みを浮かべ、小声で挨拶した。

男は冷淡な目で彼女を一瞥すると、まるで彼女を知らないかのように、彼女の傍を通り過ぎた。

安藤心は彼に無視され、とても恥ずかしく感じ、美しい顔が真っ赤に染まった。

至尊VIP個室のドアを押し開けると、中の喧騒が溢れ出た。

彼が現れるのを見て、梁井萧は見事にボールをポケットに沈め、顔を上げて意地悪く笑った。「今夜は新婚初夜で来ないかと思ったよ。」

藤堂辰也は不敵に唇を上げた。「本当は来るつもりはなかったんだが、お前たちが祝ってくれると思うと、来ないわけにはいかなかった。」

「嘘つき!新婦に寝室から追い出されたんだろ。」

ここにいる人々は、藤堂辰也と多かれ少なかれ知り合いだった。梁井萧の冗談に、彼らは小さく笑い声を上げた。

藤堂辰也も怒らなかった。こういう場では、楽しむことが一番大事だ。

「今夜はちょっとスリリングなことをやらないか?」彼は提案した。

梁井萧は身を屈めて再びボールをポケットに沈め、その動きは美しく鮮やかだった。「今日はお前の晴れの日だ。何をするかはお前が決めろ。」

「レースはどうだ?久しくやってないだろ。」

彼の言葉が終わるや否や、多くの人が興奮して賛同した。男というものは、車が好きで、スピードのスリルをさらに愛する。だからレースは、基本的に誰もが好きなものだった。

専用のレースコースでは、十数台の高級車が電光石火の如く走っていた。

車の外観は豪華だが、性能は高級レーシングカーに劣らない。藤堂辰也の輝くブガッティが先頭を走り、二番目は梁井萧の黒いランボルギーニだった。

二台の車は後続を遥かに引き離し、絶えず密かに競い合っていた。

藤堂辰也はバックミラーで真後ろを走る車を一瞥し、口元を微かに上げ、目に競争の興奮の色が浮かんだ。

前方はカーブで、勝負の分かれ目となる場所だった。