安藤若菜は頷いた。「あなたのサイズがわからなかったから、だいたい合いそうなのを選んだの。」
藤堂辰也の口元の笑みが深まった。彼は箱を開けてシャツを取り出し、サイズを確認して満足げに言った。「ちょうど僕のサイズだよ。」
安藤若菜は彼の機嫌が良さそうなのを見て、すぐにでも雲井雪のために頼み込みたかったが、どうしても彼に頼む言葉が口から出てこなかった。
荷物を片付けると、彼女は淡々と言った。「上に行くわ。」
寝室に戻ると、彼女は心の中で彼にどう切り出すべきか考えたが、どんな方法を考えてもうまくいきそうになかった。彼女は生まれつき口下手で、頑固な性格だった。こういう頼み事は、本当に苦手だった。
心が煩わしく、安藤若菜はスケッチブックと鉛筆を取り出し、絵を描き始めた。
今日、夏目望に会えたことが、彼女にとって最も嬉しいことだった。
この人生で、彼女には夏目望というたった一人の親友がいた。長年、彼女のことを心配していた。幸い彼女は元気に生きていて、まだこの街にいた。そして今日、彼女に会えたのは幸運だった。
安藤若菜は夏目望のスケッチを描いて、次に会ったときに彼女にプレゼントするつもりだった。
彼女が描き始めたとき、ドアが開いた。
藤堂辰也が杖をついて入ってきた。もう一方の手には彼女が買ってきたシャツを持っていた。
彼は彼女を見て、笑いながらさりげなく尋ねた。「誰を描いてるの?」
安藤若菜の瞳が微かに動き、顔を上げて彼に言った。「写真ある?あなたを描いてあげようか。」
男の目に驚きの色が浮かんだ。
彼ははっきりと覚えていた。以前、彼が彼女に自分を描いてくれと頼んだとき、彼女は死んでも同意しなかった。
なぜ今日突然、彼を描きたいと言い出したのだろう?
藤堂辰也は彼女の向かいのベッドに座り、鋭い目で彼女を見つめながら、唇を曲げて淡々と尋ねた。「安藤若菜、今日はとても様子がおかしいな。シャツを買ってくれたり、スケッチを描くと言ったり。君の本当の目的は何だい?」
安藤若菜は目を伏せ、彼に自分の目の中の後ろめたさを見せないようにした。
「要らないならいいわ。ただ何となく言っただけ。実際、描くつもりもなかったし。」
「君の目的は一体何なんだ?」