第550章 病状が改善した

男は横を向いて媚びるように笑い、安藤若菜は常に優しさには弱いので、彼がこうすると、彼女は断ることができなくなった。

彼女は何も言わなかったので、彼は彼女が同意したと思った。

それからというもの、安藤若菜が病院に行くときはいつも藤堂辰也が送っていき、午後には彼が早めに仕事を切り上げて彼女を迎えに行き、時には食事に連れ出すこともあった。

「知ってる?今日病院に着いたとき、いつものように入り口で康太の名前を呼んだら、彼が振り向いて私を見たの。前は呼んでも反応がなかったのに、今は反応してくれるようになったの」安藤若菜は車に乗るなり興奮して藤堂辰也に話した。

男は彼女が興奮で頬を赤らめ、目を輝かせているのを見て、思わず口元を緩めた。

「それじゃあ、彼の症状が良くなってきているということか?」

「文野先生によると、これは大きな進歩だけど、完全に回復するにはまだまだ時間がかかるって」

「焦ることはない、ゆっくりでいい。彼が君の声に反応したということは、少なくとも聴力に問題がないということだ」

「うん、私もそう思う。彼が最初の一歩を踏み出せたなら、これからは接する世界がどんどん広がっていくはず」

この世界に触れることで、彼はこの世界を受け入れ、溶け込んでいける。

わずか一ヶ月ちょっとで康太の症状に改善が見られたのは、彼女も文野先生も予想していなかったことだった。

安藤若菜は道中ずっと笑顔で、とても嬉しそうだった。彼女が本当に康太のことを好きなのが伝わってきた。

久しぶりに彼女の楽しそうな一面を見ることができ、藤堂辰也の気分も良くなった。

別荘に戻ると、使用人がちょうど食事の準備を終えたところだった。

安藤若菜は食欲旺盛に二杯もおかわりし、食事の後、突然康太が甘いものが好きだということを思い出し、自分でケーキを作って明日彼に持っていくことにした。

藤堂辰也が書斎から降りてきて、彼女がずっとキッチンで何かをしていることに気づいた。近づいてみると、彼女がケーキを作っていることがわかった。

「どうして自分で作ろうと思ったの?ケーキが食べたいなら、使用人に作らせればいいのに」男は微笑みながら言った。

安藤若菜はクリームを塗ることに夢中で、顔を上げずに答えた。「これは病院の子どもたちのために作っているの。大きめに作れば、明日みんなが食べられるから」