第556章 彼に会いに行きたい

思わないようにしていても、それは物事が起こらなかったことを意味するわけではなく、心の中で気にしていないということでもない。

彼女の心は、常に雲井陽介のことを悲しんでいた。

彼は彼女のために昏睡状態になったのに、彼女は何もできず、ここで何事もなかったかのように生活している。彼に申し訳ない、本当に申し訳ない。

森田華は彼女の様子がおかしいのを見て、眉をひそめて心配そうに尋ねた。「どうしたの？」

「何でもないわ」安藤若菜は軽く首を振った。

「僕の言い方がきつかったかな？」彼は心の中で思った。安藤若菜は藤堂辰也の元妻だ。彼女の心にはまだ彼がいるのかもしれない。藤堂辰也の悪口を聞いて、彼女は不快に思ったのかもしれない。

「あなたの言うとおりよ」安藤若菜は微笑んだ。「彼は謝るべきだし、私も謝るべき。雲井陽介のことは、私たちの責任だから」

「君たち？」森田華は驚いた。

「うん、彼は私のために、あんな状態になったの……」

男性の瞳が微かに揺れ、唇を引き締めて黙った。彼は彼女の言葉の意味を理解できた。三人の間には、何か物語があるに違いない。

「ごめん、この件が君に関係あるとは知らなかった」もし知っていたら、そんなことは言わなかっただろう。

「あなたは悪くないわ」安藤若菜は目を伏せ、垂れ下がった髪が彼女の表情を隠した。

森田華は彼女をどう慰めればいいのか分からず、立ち上がって言った。「用事があるから、先に行くよ。また機会があれば連絡するよ」

「うん、用事に行ってきて、また今度ね」女性は顔を上げ、口元に穏やかな笑みを浮かべた。

「じゃあね」森田華は急いで去り、安藤若菜はしばらく座っていたが、やがて立ち上がって病院を出て、別の病院へ向かうバスに乗った。

雲井陽介がJ市に転院して治療を受けるようになってから、彼の主治医はずっと梁井維明だった。安藤若菜は梁井維明のオフィスをノックし、雲井陽介の状態について尋ねた。

彼はいつもの言葉を繰り返した。「目覚めるかどうかは、彼の意志次第だ」

それは実質的に天意次第という意味だった。もしかしたら次の瞬間に目覚めるかもしれないし、もしかしたらこれからずっと目覚めないかもしれない。

「梁井おじさん、彼に会いたいんです」安藤若菜は懇願した。

「わかった、手配しよう」