第15章 彼は実は情に厚い人だった

この時、酒席はすでに空になっていた。

個室には田中遠三一人だけが残っていた。

しかし彼はまだ酒の興が尽きていないようで、グラスを手に取り、一杯また一杯と飲み続けていた。

「田中社長、私の友人なんですが、彼女は今年のTIFファッションデザインコンテストで最優秀賞を受賞した人なんです。彼女を当社でインターンとして推薦したいのですが、いかがでしょうか?」

田中遠三の秘書として、一人か二人のインターンを紹介することは、ごく普通のことだった。

田中遠三は声を聞くとグラスを置き、ゆっくりと葉山夢愛の方を見た。

私は前回、葉山夢愛が会社に来ていたのを覚えている。

あの時、田中遠三は深川舟一を叱りつけ、葉山夢愛をもう来させるなと言っていた。

今回二人が向かい合って過ごすなら、彼らがどのように自分の感情を隠すのか見てみたいものだ。

田中遠三は何も言わなかったが、葉山夢愛はとても緊張しているようだった。

彼女はその場に落ち着かない様子で立ち、両手を握りしめ、田中遠三を見る瞳には十二分の期待が込められていた。

明らかに、彼女は行きたがっていた。

そのとき、突然の携帯の着信音が私の思考を中断させた。

「すみません、田中社長、電話に出てきます」

私は急いで携帯を持って外に出た。

電話は沢田書人からだった。

電話を終えて個室に戻ると。

田中遠三はすでに酔いつぶれてテーブルに伏せていた。

「あの、小雲さん、田中社長が酔ってしまいましたが、どうしましょう?」

「大丈夫、彼を家に送りましょう!」

葉山夢愛はしばらく躊躇したが、結局私と一緒に、酔いつぶれた田中遠三を支えて個室から出た。

私が運転し、葉山夢愛は田中遠三を支えて後部座席に座った。

道中、私はバックミラーから時々葉山夢愛を見ていた。

田中遠三は頬を赤らめ、目を閉じ、斜めに背もたれに寄りかかって眠っているようだった。

葉山夢愛は彼の隣に座っていたが、理性的な距離を保っていた。

時折頭を傾けて田中遠三を見る以外は、他に何の動きもなかった。

ホテルから田中遠三の住まいまで、合計40分の間、この二人には親密な行動は一切なく、恋人同士には全く見えなかった。

通常、肌を触れ合うような関係の二人が一緒に座っていれば、こんなに平静ではいられないはずだ。