第63章 演技だけが頼り

この場所は以前、昼間に来た時はそれほど何とも思わなかった。

しかし夜に来てみると、ここは不気味で怖いと感じた。

周囲は静寂に包まれていた。

その赤い微かな蝋燭の光は、鬼火のようで、私がまだ近づく前に、道士が幡を持って魂を呼び戻す声が聞こえた。

「魂よ、戻れ、松岡雲、戻ってきなさい!」

それを聞いて、全身が鳥肌だらけになった。

蝋燭台の前で、スーツ姿の田中遠三が真剣な表情で線香をあげていた。

彼のこの姿に少し驚いた。

私の中では、田中遠三は決して霊や神を信じない人だった。

以前、友人から新年に初詣に行くと会社の財運が良くなると聞いた。

何度か彼を誘って一緒に参拝に行こうとしたが、何度も冷たく断られ、さらに彼に笑われた。

彼は何度も私に、強者は霊や神を信じないと言っていた。