第184章 ハエを食べたような吐き気

私の手をしっかりと握っていたその手が、徐々に離れていった。

田中遠三は少し口角を上げ、

「女は、足るを知るべきだ!」

「田中社長、ありがとうございます!」

「何のお礼だ?」

私は彼に答えなかった。

ただグラスを持ち上げ、彼と軽く乾杯し、一気に飲み干した。

席上、男たちは談笑し、田中遠三は王者のようであり、この瞬間、私の感情も谷底に落ちていた。

私も完全に理解した、彼から公平さを求めることは不可能だということを。

彼はいつも葉山夢愛のために言い訳をしている。

いわゆる真相を探すために私を連れて行くというのは、結局は私を惑わすための虚偽の幻想を作り出し、葉山夢愛を逃がすためだけだった。

「田中社長のおかげで、自分の心も、そして田中社長の人柄もはっきりと見えました!」

そう言って、私はグラスを置いて立ち去ろうとした。