車の中で、温井雅子は時々鈴木誠一に電話をかけていた。
私は窓の外を眺め、急速に後退していく街の景色に思いを馳せていた。
それらは私と田中遠三との過去のようだった……
彼はなぜこんなに恐ろしい人になってしまったのだろう?
温井雅子は電話を切って私の方を向いた。
「鈴木誠一は伊藤家に行ったわ。警察がまだ伊藤家にいるって!つまり、人は死んだけど、この事件はまだ調査が続くってことよ」
「はぁ!」
今の私の怒りは、何の役にも立たない。
「田中遠三って本当に怖い人ね!前はこんなに冷酷だとは思わなかったわ!」
温井雅子は感慨深げだった。
「そうね、私も前は彼がこんなに冷酷だとは知らなかった!まるで別人になったみたい!今の彼を受け入れることができないわ」
「ねえ、もしかして、彼は誰かに乗っ取られたんじゃない?」
温井雅子の質問に、私は固まってしまった。
確かにそういうことも考えられる。特に五十嵐麗子が以前、田中遠三が死にかけたと言っていたことを思い出した。
しかし、しばらく考えた後、私は首を振って否定した。
「そんなはずないわ!彼は彼よ、他の誰でもない!」
30分後、私たちは松岡家に到着した。
意外なことに。
今夜は松岡雄介が家にいた!
五十嵐麗子の顔には珍しく笑みが浮かんでいた。彼女は熱心に私たちをもてなし、特に温井雅子を見たときは、とても嬉しそうだった。
彼女は前に出て温井雅子の手を取り、一言も言わないうちに涙を流し始めた。
温井雅子は私の幼なじみで、以前もよく一緒に遊びに来ていたから、温井雅子を見て、五十嵐麗子は過去の私を思い出したのだろう。
五十嵐麗子を悲しませないように、温井雅子はすぐに話題を変えた。「おばさま、この猫はあなたが飼っているの?」
それは非常に美しいラグドールで、新しく買ったキャットベッドの中でゴロゴロしていた。
五十嵐麗子は言った。「そうよ、これは遠三が私が退屈しないようにと、昨日持ってきてくれたの!あの子はとても気が利くのよ!」
温井雅子は顔を上げ、私と視線を交わした。
私は黙ったまま、リビングの反対側に目を向けた。
そこには松岡雄介がいた。
関係上では、松岡雄介は私により親しい存在のはずだ。