第208章:彼にはもう機会がない

賀川心は医師に相談を終えると、検査報告書を持って出口に向かって歩き始めた。そこに座っている顔色の青白い男性に気づきもしなかった。

彼女の手が突然彼に掴まれるまで。

「心姉、君の検査結果を見せてくれないか」深山義彦は手を伸ばして賀川心の手にあるエコー検査の報告書を奪おうとした。

賀川心は眉間にしわを寄せ、本能的に一歩後ずさりし、報告書を自分の背後に隠して、警戒心を持って目の前の男性を見つめた。

彼が報告書を見て何か過激な行動を取るのではないかと恐れていた。

「心姉、君が子供を妊娠していることは知っている。君を傷つけるつもりはないんだ」深山義彦は再び手を差し出した。彼女が泥棒でも警戒するように自分を避けるのを見て、彼の心は痛みで締め付けられた。

彼には他意はなく、ただ彼女の健康状態がどうなのか知りたかっただけだ。