「縁子……」深山義彦は息子の愛称で呼びかけ、久しぶりに微笑みを浮かべた。それは子供を怖がらせないためでもあった。
賀川心は顔を真っ赤にして、心乱れていた。彼女は縁子を抱きながら数歩前に進み、今はただ早く出て行きたかった。目の前の男に会いたくなかった。
しかし彼女が五歩目を踏み出したとき、男の力強い手に引き止められた。
「心姉、落ち着いて」深山義彦は深いため息をつき、漆黒の瞳に痛みの色が過った。彼の心も締め付けられるようだった。
「座って、ちゃんと話そう」
彼は彼女がまた過激な行動に出るのを恐れていた。
賀川心は振り向いて、かつて愛していたが今は憎んでいる男を見つめた。彼女はただ平穏に暮らしたいだけなのに、なぜ彼は何度も彼女の生活を邪魔し、子供を奪おうとするのか。