第93章 逆転の一手

「奥さんは?」

鈴木ママは果物を持って出てきて、そっと手を拭いた。「奥さんは二階にいますよ」

羽柴明彦は上着を脇に投げ捨て、まっすぐ階段を上がった。

浴室内は湯気が立ち込めていた。

夏目芽依は足先を上げ、五色の泡が浮かぶバスタブに気持ちよさそうに横たわり、小さな頭と怪我した肘だけを露出させていた。

彼女は考えた末、シャワーを浴びれば必ず腕が濡れてしまい、傷はかさぶたができているものの、まだ水に触れるべきではないと判断した。それなら腕を包帯で巻いて湯船に浸かる方が、快適で気も楽だろう。

彼女は脇に置いた梨ジュースを一口飲んだ。清らかでさっぱりとした味わいに思わず満足のため息をついた。「なんて素敵な夜なんだろう〜」

言葉が終わらないうちに、突然浴室のドアが開き、冷たい空気が流れ込んできた。