「羽柴社長、本当に送らなくていいんですか?」運転手は再三確認した。
「必要ない」羽柴明彦は手を振った。今日は酒を飲むつもりはなく、式に参加したらすぐに戻るつもりだったので、自分で車を運転した方が便利だった。
夏目芽依はスカートの裾を引っ張りながら助手席に座った。この季節に野外で結婚式を行うなんて、まるで女性ゲストを困らせているようだった。彼女は肩にかけていた厚い毛皮のコートを膝の上に置き、ポケットから使い捨てカイロを二つ取り出した。
「要る?」
羽柴明彦は下を向いて一瞥した。「これは何だ?」
「カイロよ。今日は気温が低いから、きっと寒くなるわ。備えあれば憂いなしでしょ」
羽柴明彦は口角を引きつらせた。どうやらこの女は世の中に屋外用ヒーターというものがあることを知らないようだ。「必要ない」