第215章 頼みは聞くべき

「また遅くなったの?」ドアを開けるなり、羽柴明彦は不機嫌な顔をしていた。

夏目芽依は靴を脱ぎ替え、紙袋をダイニングテーブルに置くと、甘く微笑んで言った。「夜食買ってきたよ、食べない?」

ことわざにもあるように、笑顔には拳を振り上げられない。彼女のこの態度に、羽柴明彦は怒りをぶつけることができなかった。

「鈴木ママが来週から復帰できるって言ってたよ」羽柴明彦は本を閉じ、テーブルに近づいた。「この間、ありがとう」

夏目智子は手を振って否定した。「料理を作るだけよ、大したことじゃないわ。家にいても同じことをするんだから。でも鈴木ママが戻ってくるなら、私は家に帰るわ。若い二人の邪魔をしないようにね」

彼女がそう言うと、みんな心の中でほっとした。夏目芽依と羽柴明彦は一つの部屋で寝ていたが、二人とも居心地が悪かった。また、夏目智子がここで料理を作るのも、姑でもなく家政婦でもない中途半端な立場で、自分の家にいる方が気楽だった。