羽柴明彦が部屋に入ると、リビングルームは空っぽで、普段ならここでフルーツを抱えて動画を見て大笑いしている夏目芽依がどこかへ行ってしまったことに気づいた。
「明彦くん、こっちに来てフルーツを食べましょう」夏目智子はキッチンから出てきて、親しげに彼を招いた。「今日はチリのさくらんぼを買ってきたの。一緒に食べましょう、とても甘いわよ」
「芽依は?」
「あの子ね、ずっと部屋に閉じこもって、何か自分のことで忙しいみたい。私にはよくわからないけど」夏目智子は微笑んだ。実際、彼女は芽依が仕事のことを処理していることを知っていたが、直接言うのは良くないと思った。結局、娘は初日から何度も言い聞かせていた。彼女は働くことを許されていないので、絶対に口を滑らせてはいけないと。
羽柴明彦は上着を脱ぎ、そのまま階段を上がった。