夏目芽依は朝早く会社に着き、メールボックスを開いたとたん、目に飛び込んできたのは離婚協議書だった。
すべての事項は夏目芽依がネット上のテンプレートに基づいて記入済みで、二人の間には経済的な紛争も共有財産も子供もなかった。双方がサインするだけで、この離婚協議書は有効になる。夏目芽依はすでに署名欄に自分の名前を書いていた。
彼は息を飲んだ。いつも羽柴明彦が他人を従わせる側だったのに、いつの間にか他人に逆らわれるようになったとは。この女、とんでもない度胸だ。
「社長、外に鈴木弁護士という方がお会いしたいと仰っています」秘書が入ってきて、静かに言った。
「何の鈴木弁護士だ?」羽柴明彦は機嫌が悪く、風光グループの法律チームには鈴木という姓の人間はいないので、即座に断った。「会わない」