夏目芽依母娘が現在住んでいる住宅地からそう遠くないところで、羽柴明彦と片桐恭平がカフェで向かい合って座っていた。
「言いたいことがあるなら早く言ってくれ。一晩中ここでコーヒーを飲むつもりじゃないだろう」
1時間ほど前、羽柴明彦がタクシーを降り、まだ住宅地の門をくぐる前に、片桐恭平に腕をつかまれていた。
「お前?」彼が驚く間もなく、片桐恭平は自分の意図を告げた。「ずっと待っていたんだ」
羽柴明彦は彼の腕を振り払い、住宅地の中へ歩き始めた。
「こんなことして何の意味があるんだ?」片桐恭平が彼の後ろから叫んだ。「夏目芽依はまだ帰ってきていない」
バスでの移動はタクシーより時間がかかるのは当然で、羽柴明彦もバカではない、そんなことは分かっていた。彼は黙々と前に進み、振り返りもしなかった。