中村満彦は刑務所から出て、久しぶりの自由な世界を目にし、胸に様々な感情が交錯した。
「お父さん」中村海斗が前に歩み寄り、彼の腕を引いて車の側まで連れて行った。「まず車に乗りましょう」
中村満彦は空っぽの車を一目見て、自分を迎えに来たのは海斗一人だけだと分かり、顔に失望の色を隠せなかった。これだけの年月が経ち、松本栄美との縁はとうに切れていることは分かっていたが、それでも心のどこかで一筋の希望を抱いていた。もしかしたら彼女がまだ自分に会いに来てくれるかもしれないと。今となっては、それは考えすぎだったようだ。
「どうしたの?」海斗が顔を下げて尋ねた。
「いや、何でもない」中村満彦は首を振った。「ただ中にいた長い年月の後で、急に外に出てきて、まだ慣れないだけだ」
彼はゆっくりと車に乗り込み、海斗はドアを閉め、運転席に座って車を発進させた。