第540章 手放しで譲るのが正解

二人がまだ対立している中、木村城太がドアを開けて入ってきて、携帯電話を差し出した。

「羽柴社長、携帯電話は修理が完了しました」と彼は言った。「ただ、お預かりした時点ですでにストレージカードが入っていなかったので、携帯のSIMカードに保存されていたデータしか確認できません。情報はあまり多くないかもしれません」

羽柴明彦はうなずいた。「わかった、先に出ていてくれ」

夏目芽依の視線はその古い携帯電話に落ちた。彼女は思い出した、あの夜、書斎のテーブルで見たのはこの携帯だったことを。あまりにも古かったので、特に注目して見ていたのだ。

あの時の羽柴明彦の態度はとても奇妙だった。まるでそれが何か宝物であるかのように、彼女に触らせようともしなかった。今になって、わざわざ修理して中のデータを確認しようとしているなんて、何か大きな秘密が隠されているように思え、彼女の好奇心をそそった。