石塚千恵の脳裏には、幸せな感覚が広がっていた。
「はぁ……」橋口俊樹は再び溜息をついた。「千恵、これって運命の悪戯だと思わないか」
「だから私たちには縁がなかったのよ。さっさと私のことは諦めたら?実際、あなたが私をどれだけ愛していたの?以前はあったかもしれないけど、その後はなくなったはず。私たちの5年間の結婚生活は、『愛』で維持されていたわけじゃない。ただあなたが諦められなくて、私を傷つけたい、苦しめたいと思って、なかなか手放そうとしなかっただけ。今でもそう、ただ私を手に入れられなかったと思っているだけ……それは愛とは全く関係ないわ!」
「……」橋口俊樹は黙り込み、千恵の言葉を考えていた。
しかし彼は自分が彼女を愛していないなんて信じられなかった。もし本当に愛していなかったら、彼女を傷つける方法はいくらでもあったはずだ。なぜわざわざ何年も結婚生活を続けて自分を縛り付けていたのだろう?
「僕の心臓に触れてみない?今も君のために鼓動しているんだ!」彼は突然言い、彼女の小さな手を掴んで自分の胸に押し当てようとした。
「やめて……」石塚千恵は必死に抵抗した。
「君は本当に男を必要としていないのか?信じられない。一度男を知った女性は、大人の関係なしでは生きていけないはずだ。むしろ女性の欲求は男性より強いくらいだ。もしかしたら、その男は君に喜びを感じさせることができなかったのか!」彼は息を切らしながら、止めどなく言い続けた。
「私が何を感じたかは、あなたが心配することじゃないわ。私自身が知っていればそれでいいの!」石塚千恵は不機嫌そうに叫んだ。
彼女は笹木蒼馬を中傷する人が大嫌いだった。それはまさに侮辱だった!
「もし君が本当に経験しているなら、こうして生身の男が、しかも君の夫だった男が隣にいるのに、何も感じないはずがないだろう?」橋口俊樹は乾いた声で尋ねた。
「あまり調子に乗らないで、それはあなたには関係ないわ!」
「でも知りたいんだ、本当に知りたいんだ!」彼は自分が怒りで狂いそうだと感じた。なぜ自分の妻は、いつも彼を拒絶するのか?
彼は彼女をぐいと掴んだ。
「橋口俊樹、離して!」