神崎深一は本来入るつもりはなく、外で待っていた。
陸奥照影は助手席から降りて、自分はずっとコーヒーが飲みたかったと言った。
神崎深一は少し考えてから、このコーヒーショップに向かって歩き出した。
この時間帯、店内にはほとんど人がおらず、一目見ただけで窓際に座っている三人が見えた。
神崎深一は店の入り口に立ち、秋山直子は彼に背を向けていたので、この角度からは彼女の顔は見えなかったが、彼女の向かいに座っている女性は顎を高く上げ、高圧的な雰囲気を漂わせていた。
陸奥照影はカウンターの店員に一杯のコーヒーを注文した。「一杯、テイクアウトでお願いします、ありがとう」
神崎深一はコーヒーを注文せず、カウンターに軽くもたれかかり、だらしなく秋山直子の方向を見ていた。
口にタバコをくわえたまま、動かなかった。