139 手速第一は誰（一更）

このトイレは通路の奥にあり、通路全体が長く、黄色い灯りだけが灯っていた。

静かで、かすかな水滴の音さえ聞こえるほどだった。

灯りは少し暗かったが、人影ははっきりと見えた。

杉森真琴の熱狂的なファンとして、橘声也が杉森真琴を知らないはずがなかった。

特に彼は服を着替えておらず、まだあのOSTのチームユニフォームを着ていた。

そして彼の向かい側には——

女性が少し俯き、だらしなく壁に寄りかかり、腕を組んでいた。その姿勢はどこか無関心で、不真面目な気楽さを漂わせていた。

頭にはまだあのキャップを被り、帽子の縁を低く押さえていた。この角度からは彼女の目は見えず、ただ白く輝く顎だけが見えた。

橘声也は深く息を吸い込んだ。彼は一度目を閉じ、再び開いた。

杉森真琴の向かいにいるその人影はまだそこにいた。彼は間違っていなかった。