第271章 言い争いになったら彼女にキスする15

鈴木音夢は自分の手を見下ろし、少し震えていることに気づいた。

卓田越彦の顔は、醜いほど黒くなっていた。

鈴木音夢は自分の口を拭い、堂々と彼の横を通り過ぎた。

馬場嘉哉も呆然としていた。彼は断言できる、若奥様は間違いなくこの世で初めて、公衆の面前で若旦那に平手打ちを食らわせた人物だと。

彼は急いで監督に仕事をきちんとするよう言った。このような事は、絶対に報道されてはならないのだ。

葉山桐子はすでに何度も海のシーンを撮り直していたが、卓田越彦はまだ満足していなかった。

そして今、鈴木音夢というあの命知らずの女が、実際に卓田越彦を平手打ちにしたのだ。

きっと、卓田越彦は鈴木音夢を殺すだろう。彼女のチャンスが来たのではないだろうか?

葉山桐子は全身びしょ濡れのまま、思わず近づいていった。「卓田社長、大丈夫ですか?」